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はじめに

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 みなさん、CERN,LHC,ATLAS実験,ヒッグス粒子といった言葉を聞いたことはありませんか?
 このページではこれらのキーワードの簡単な紹介と九大ATLAS実験グループの研究内容等についてご紹介します。

ATLAS(アトラス)実験グループ

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 ATLAS実験は欧州原子核研究機構(CERN:セルンまたはサーン)と呼ばれるヨーロッパの研究機関で行われている国際共同実験の1つです。大型ハドロン衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider)と呼ばれる加速器を用いて実験を行います。LHCはスイス、ジュネーブにあり、周長27kmもある世界最大の円形加速器です。ATLAS実験では、この加速器で陽子を加速し、衝突させ、そこから出てくる粒子をATLAS検出器を用いて見ることによって、これまで分かっている物理の精密測定や未知の物理の探索を行います。

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 ATLAS検出器は先ほど述べたように、LHCで加速された加速された陽子が衝突し、生成された粒子を見るための検出器です。右の図と写真がATLAS検出器です。この検出器は高さ25m、長さ44m、重さ7000tという巨大な検出器でありながら、非常に高精度・高分解能な検出器でもあります。この検出器は、内側から内部飛跡検出器、電磁カロリーメータ、ハドロンカロリーメータ、ミューオン検出器という構造になっています。これらの検出器を駆使して、粒子の運動量やエネルギーを測定し、どのような粒子が出てきたかを同定します。

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 2015年6月に2年間の検出器のアップグレードや、補修・修繕を経て、衝突エネルギー13TeVという世界最高エネルギーで実験が再開されました。今後のATLAS実験が出す結果に世界が注目しています。



 本実験において、九大グループでは主に4つの活動をスタッフ、学生が協力して行っています。

検出器の運転

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 九大グループでは内部飛跡検出器の中でも、シリコンマイクロストリップ飛跡検出器(SCT:Semi-Conductor Tracker)と呼ばれる検出器の運転・維持・較正を行っています。SCTでは陽子陽子衝突から生成された荷電粒子の飛跡を検出し、その運動量を測定する、ATLAS検出器の中でも重要な検出器の1つです。大学院生も長期で現地へ派遣され、この検出器の運転に貢献しています。


データの準備

 検出器の様々な情報をデータベースで管理し、データの取得や処理の際に用いるためのデータの準備を行います。検出器の位置、ケーブルのつなぎ方、較正、ノイズや磁場など様々な所で使われます。

物理解析

 実際に取得されたデータを用いて、九大グループでは主に2つの物理解析を行っています。
 1つはヒッグス粒子探索、もう1つは超対称性粒子の探索です。

◯ヒッグス粒子探索

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 現在の素粒子物理学では、標準模型(the Standard Model)と呼ばれる理論が存在し、これまでの実験を高精度で説明してきました。標準模型で予言される粒子のうち、ヒッグス粒子のみが発見されていませんでした。しかし、2012年にATLAS実験とCMS実験は新粒子を発見し、それをヒッグス粒子と同定しました。この発見に基づき、アングレール氏とヒッグス氏が2013年ノーベル物理学賞を受賞しました。本研究室は、ヒッグス粒子が2つのZ粒子に崩壊するような過程の探索を行っており、特に系統誤差の評価に貢献しています。

 右上のイベントディスプレイはヒッグス粒子が2つのZ粒子となり、さらにZ粒子が2つのミューオンに崩壊したと思われる事象です。ミューオンは赤い色の線で描かれており、4本描かれていることが分かります。

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 右側のヒストグラムでは、バックグラウンド(水色や紫)に対して、ヒッグス粒子と思われるシグナル(赤色)が125GeV付近にピークがあることが見て取れます。
 ヒッグス粒子は既に発見されましたが、これで終わりではなく、ヒッグス粒子をより精密に研究することによって、新物理の間接探索を行います。


◯超対称性粒子探索

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 超対称性粒子の探索は素粒子分野の重要な課題の1つとなっています。ヒッグス粒子が発見されたことを先述しましたが、その質量は125GeVという質量を持っていますが、この値は自然な理論計算からは不自然に小さいことが分かっています。また、基本的な相互作用(重力、電磁気力、強い力、弱い力)のうち統一されたのは、電磁気力と弱い力だけであり、全ての相互作用を統一するには何らかの新しいメカニズムを導入しなければなりません。このように、素粒子物理ではまだまだ多くの謎、標準模型を超えた物理(BSM:Beyond the Standard Model)が存在しなければなりません。その新物理として有力な候補が超対称性理論(SUSY theory : Supersymmetry theory)と呼ばれる理論があります。この理論では標準模型粒子のパートナーとなる粒子が予言されており、それを超対称性粒子(SUSY粒子)と呼びます。特に私たちは、ダークマターをモチベーションとした長寿命となる超対称性粒子の探索を行っています。
 右の図はファインマン・ダイアグラムと呼ばれるもので、粒子の生成・崩壊過程を示しています。赤色で書かれた線が超対称性粒子です。私たちはWino(ウィーノ)と呼ばれる超対称性粒子が長寿命になるモデルなどを探索しています。

検出器のアップグレード

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 ATLAS検出器は、数回の検出器のアップグレードが予定されています。九大グループは2024年頃のアップグレードで内部飛跡検出器のアップグレードに焦点を当て、そのための新しいシリコン半導体検出器の開発を行っています。これは実際に本研究室の所有する装置を用いて、読み出しチップの検査やモジュールの開発検査などを行っていきます。また、シミュレーションによる研究も行い、検出器の配置を決定するといった研究も行っています。

リンク


CERNHP
ATLAS実験HP
ATLAS実験日本HP