COMET (COherent Muon to Electron Transition) 実験は、ミューオンを使って新しい物理法則の発見を目指す国際共同実験です。J-PARC(大強度陽子加速器施設、茨城県東海村)のパルスミューオンビームを利用し、ミューオンの稀な崩壊過程(ミューオン電子転換過程)を1京分の1の精度で探索します。九州大学素粒子実験研究室も本実験に参加しており、2017年ごろの実験開始に向けて検出器の開発やシミュレーションを用いた研究を行っています。
素粒子物理の基本的な相互作用を記述した”標準理論”は多くの実験的事実を矛盾なく説明することができますが、一方で重力の量子化や暗黒物資の存在など未だに解決できない問題が残っています。これは私たちがまだ知り得ていない新たな物理法則の存在を示唆しています。
"標準理論"では世代ごとのレプトンの数は保存され、反応の前後で変化しません。(レプトンフレーバー保存則)通常のミューオンの崩壊過程では電子と共にニュートリノが放出されるので、それぞれの世代におけるレプトンの数は保存されます。対してミューオン電子転換過程ではそれぞれの世代におけるレプトンの数が反応の前後で異なり保存されません。そのため、ミューオン電子転換過程は"標準理論"において強く制限され、10^-54の確率でしか起こりません。しかし新たな物理法則の発見が存在すれば、測定可能な範囲(10^-16の確率)でこの反応が起こることが予想されます。COMET実験では、ミューオン電子転換過程を実験的に発見することで新たな物理法則の発見を目指します。
ミューオン電子転換過程では、原子核近傍のミューオンがニュートリノを放出せずに電子へと崩壊するため、ミューオンの質量分の運動エネルギー(約105MeV)を持つ電子が1個放出されます。そのため、電子を精密に測定することで、ミューオン電子転換過程由来の電子を識別することができます。
J-PARCの世界最大強度のパルス陽子ビームをパイオン生成標的に照射し、発生したパイオンをソレノイド磁場で捕獲します。パイオンは湾曲ソレノイド内でミューオンに崩壊します。このミューオンをミューオン静止標的に輸送し静止させます。湾曲ソレノイドは電荷と運動量を識別できるので、低エネルギーの負電荷ミューオンのみを選択し輸送します。ミューオン静止標的に静止したミューオンから発生した電子を測定します。
COMET 実験はPhase-IとPhase-II の2段階で行われます。Phase-Iではミューオン輸送ソレノイドの90度湾曲部までしか作成しません。そのためPhase-IIとは異なる検出器(円筒型検出器群)で電子の測定を行います。 Phase-IIでは、180度湾曲ソレノイドからなる電子輸送部で105MeV領域の電子のみ選択し、検出器部に輸送します。検出器は、真空中に置かれたストローガス飛跡検出器とシンチレーション結晶からなる電子カロリメータから構成され、電子の運動量とエネルギーを測定します。
円筒型検出器群のトリガーホドスコープ検出器の開発を行っています。大量の粒子の中から信号である電子を識別する役割があります。
Phase-IIでの電子の識別及び、エネルギー測定を行います。また、Phase-Iにおいてもビーム起因背景事象の測定に使用します。
Phase-IIでの粒子の識別、及び運動量の測定を行います。また、Phase-Iにおいてもビーム起因背景事象の測定に使用します。
各種検出器のための読み出し回路の設計開発を行っています。
実験開始に向けてシミュレーションの開発や研究を行っています。