国際リニアコライダー(ILC)とは全長31km(〜最大50km)の電子・陽電子衝突型線形加速器であり、日本への建設実現のために世界中で研究が進められています。近年のLHCにおけるヒッグス粒子の発見は2013年ノーベル賞受賞のきっかけとなりました。ILCはこのヒッグス粒子の精査や超対称粒子の探索などを通して、質量の起源、力の統一、宇宙創世の謎を突き止めることを目的としています。
ILCには、ILDとSiDという2つの検出器が予定されています。そのうち当研究室が関わっているのは、ILDと呼ばれる検出器です。この検出器には、日本では多くの研究機関が携わっています。ILCでは興味のある反応の終状態にジェット(多数のハドロンの集合)を多数含むため、検出器にはこれらのジェットに対する高いエネルギー分解能が必要とされます。ILCではこれに対応するためにParticle Flow Algorithm(PFA)という事象再構成手法が用いられます。具体的には、荷電粒子はトラッカーで運動量を、光子は電磁カロリメーターで、中性ハドロンはハドロンカロリメータでエネルギーを測るといった、ジェット中の粒子の種類によってエネルギーを測る測定器を変えるというものです。
このPFAの性能を向上させるためには高精細な検出器が必要不可欠であり、当研究室では国内外の研究機関と協力しながら電磁カロリメータに関する研究をソフトウェアとハードウェアの両面から行っています。
ILDの電磁カロリメータにはPFAの要求を満たす候補として、ピクセル型シリコン半導体検出器を使った検出器(SiECAL)と、プラスチックシンチレータと半導体光センサーMPPCを用いた検出器(ScECAL)の2つが提案されています。当研究室では、そのうちの1つであるSiECALで使われるピクセル型シリコン半導体に関する研究を行っています。また、PFAの性能を維持しつつコストを削減できるように、シリコンとシンチレーターの2種類両方を用いたハイブリッド型電磁カロリメータも提案されており、それを実現するためにシミュレーションでの構造研究や読み出しシステムの開発研究を進めています。その他にも、ILCで起こると考えられている物理現象を理解するための物理シミュレーション研究も行っています。
CALICE (Calorimetry for Linear Collider Experiments)国際共同研究は、ILC実験でPFAに最適化されたカロリメータを実現するため、様々なテクノロジーに基づいた開発研究を行っています。日本のグループは、細分割されたシンチレータと半導体光センサーMPPCを用いた電磁カロリメータ (ScECAL) の開発研究を行ってきました。これからは、細分割されたシリコンパッドを用いた電磁カロリメータ(SiECAL) の開発研究も行っていきます。