ExperimentalParticlePhysics

国際リニアコライダー(ILC)計画

International Linear Collider ilc logo
国際リニアコライダー(International Linear Collider)計画とは、世界48カ国共同で進めているLHCの次の役割を担う次世代型直線加速器計画です。電子とその反粒子である陽電子を全長31km(〜50km)の加速器の中で加速させることで実験を行います。電子と陽電子を光速に近い速度まで加速し、正面衝突させることで、宇宙が始まってから10-12秒後のエネルギー状態を作ることができ、そこから生まれるヒッグス粒子を始めとする様々な粒子を測定器によって観測します。ILCではその観測された粒子の情報から、宇宙初期の解明、質量の起源、力の統一の謎を突き止めることを目標としています。このILC計画は現在、世界各地の候補地の中で日本に建設されることが有力になっています。このILC計画を実現させるために、当研究室は測定器開発の一部を担っています。

ILD(International Large Detector)

International Large Detector イベントディスプレイ
ILCの電子ビームと陽電子ビームの衝突点にはILD(International Large Detector)とSiD(Silicon Detector)と呼ばれる2つの測定器が予定されています。当研究室は日本の数多くの研究機関とともにILDの開発に携わっています。
ILDは高さ約13 m、長さ約14 mの測定器で、内側から飛跡検出器、電磁カロリメータ、ハドロンカロリメータ、ミューオン検出器という構造になっています。これらの検出器とPFA(後述)を用いて、最高性能の測定を行っていきます。

  • Particle Flow Algorithm(PFA)

    ILCでは目標とする物理の反応において終状態にジェット(多くの粒子が集まったもの)を多数含みます。このジェット中の粒子1つ1つを同定するためにILDには高いエネルギー分解能が求められます。そのため、現在Particle Flow Algorithm(PFA)という手法を用いてその要求に応えようとしています。大まかに説明すると、荷電を持った粒子は飛跡検出器で運動量を、光子は電磁カロリメーターでエネルギーを、中性のハドロン(強い相互作用で結びついた複合粒子のまとまり)はハドロンカロリメータでエネルギーを測るといった、ジェット中の粒子の種類によってエネルギーを測る検出器を変えるというものです。

九大での活動

ILDの電磁カロリメータにはPFAの要求を満たす候補として、ピクセル型シリコン半導体検出器を使った検出器(SiECAL)と、プラスチックシンチレータと半導体光センサーMPPCを用いた検出器(ScECAL)の2つが提案されています。当研究室では、そのうちの1つであるSiECALで使われるピクセル型シリコン半導体に関する研究を行っています。また、PFAの性能を維持しつつコストを削減できるように、シリコンとシンチレーターの2種類両方を用いたハイブリッド型電磁カロリメータも提案されており、それを実現するためにシミュレーションでの構造研究や読み出しシステムの開発研究を進めています。その他にも、ILCで起こると考えられている物理現象を理解するための物理シミュレーション研究も行っています。


電磁カロリメータの構造最適化研究
  • 電磁カロリメータの構造最適化研究

    電磁カロリメータは光子のエネルギーを測定する検出器であり、エネルギーの測定部分である検出体とエネルギーを吸収する吸収体という2種類の構造を持っています。ILDでは検出体にシリコン、吸収体にタングステンを用いて、更にこれらを交互に組み合わせたサンプリング型という構造にして、高精細なカロリメータを実現し精密な測定を目指しています。しかし、シリコンは精密な測定を可能にしてくれますが、高価であることからILD全体でかかるコストのうち一番大きな割合を占めています。
    九州大学素粒子実験研究室のILCグループでは、研究の1つとして物理目標から要求される測定精度を満たしつつ、コストも抑えたカロリメータを開発するために、様々な角度からカロリメータの構造を検証しています。
    具体的には、シミュレーションソフトを用いて、検出体と吸収体の厚さや層数を変えたり、シリコンのピクセルのサイズを変えて測定精度の変化を調べています。また、検出体としてシリコンの他にシンチレータも用いたハイブリッド型を提案し、電磁カロリメータだけでなくその外側にあるハドロンカロリメータも含めて、カロリメータ全体の構造開発・検証も進めています。


  • 物理シミュレーション

    物理シミュレーション
    ILCには物理目標の1つにヒッグス粒子の精密測定が掲げられています。当研究室では、実際に実験を開始した際のデータの理解を深めるべく、物理シミュレーションを用いて解析手法の研究を行っています。特に、ILCの初期段階(重心系エネルギー250 GeV運転時)に典型的なヒッグス粒子の生成過程となるZH随伴生成過程の解析手法や500 GeV運転時におけるttHの解析手法の研究を行っています。

    シリコン半導体の特性研究
  • 電磁カロリメータで用いられるシリコン半導体の特性研究

    ILDでは非常に高い測定精度が求められています。それに伴い、ILDの電磁カロリメータの検出体にも、この要求を満たす適した物質と形状が必要となってきます。そこで現在、検出体の候補の1つとしてピクセル上に細分化されたシリコン半導体が考えられています。
    測定要求を満たす検出器を作るためには高い技術が必要となり、当研究室では、その検出器の試作品づくりを浜松ホトニクス社と共同で行っています。そしてできた試作品が実際に要求を満たすものかどうかを検証するために、特性研究を国内外の大学や研究機関、企業と共同で行っています。具体的には、試作品の電流-電圧特性や容量-電圧特性、またレーザーを用いて半導体の応答特性を調べています。更に、実際にILCが稼働した時には検出器は大量の放射線に晒されるため、その放射線耐性も調べています。

    この検出器が将来ILDで用いられる場合、大量の枚数が必要となるだけでなく、その全てがILDの測定要求を満たすものでなければなりません。そのため、先程述べた電流-電圧、容量-電圧特性の測定やレーザー測定を1枚1枚正確かつスピーディーに行う必要があります。この測定方法の開発も、当研究室では行っています。

    読み出しシステムの開発
  • 読み出しシステムの開発

    ILDのカロリメータに使われる読み出しシステム(DAQ)の研究開発を海外の研究機関と共同で行っています。シリコン半導体検出器では、総チャンネル数が10億にも上るため、デットスペースを減らすために読み出しとしてPCBにASICを載せることが予定されています。我々はそのILDシリコン検出器に使われる専用ASIC、SKIROC2(Silicon Kalorimeter Integrated Read-Out Chip)の性能評価やシリコン検出器とシンチレータ検出器の両方を用いたハイブリッド型カロリメータの実現に向けて、ILDのカロリメータ全体を動かす統合DAQの開発も行っています。

CALICE国際共同研究

CALICE国際共同研究

CALICE (Calorimetry for Linear Collider Experiments)国際共同研究は、ILC実験でPFAに最適化されたカロリメータを実現するため、様々なテクノロジーに基づいた開発研究を行っています。日本のグループは、細分割されたシンチレータと半導体光センサーMPPCを用いた電磁カロリメータ (ScECAL) の開発研究を行ってきました。これからは、細分割されたシリコンパッドを用いた電磁カロリメータ(SiECAL) の開発研究も行っていきます。

Meetings/Workshops

リンク

ILC(International Linear Collider)