ExperimentalParticlePhysics

NOP group

非常に低エネルギーの中性子(数neV〜数meV)を利用した実験で素粒子現象の研究を行なっています。 以下の3つの実験を茨城県にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質生命科学施設で行っています。

中性子寿命測定

 陽子とともに原子核を構成する核子のひとつである中性子は、単独でいる場合約880秒の寿命で陽子へと崩壊します。中性子寿命は宇宙初期のビッグバン元素合成理論における元素合成量(He/H比)に影響を与える重要な値です。この元素合成量の『中性子寿命から求めた理論値』と『遠方宇宙の観測値』の間には無視できないズレがあります。このズレを検証するために精密測定が必要になりますが、これまで行われてきた実験ではその測定手法毎に結果が二分しています。そこで、NOPグループではこれまでと異なり加速器で作った中性子を使用する新たな手法を用いた検証に取り組んでいます。

重力の逆二乗則の検証

 自然界に存在する4つの力の内、重力相互作用は極端に小さく、他の相互作用に比べて検証が進んでいません。この重力の弱さを説明する理論モデルとして「大きな余剰次元モデル」などが議論されています。面白いことに、これらのモデルでは重力法則が皆さんの知っている逆二乗則からズレることが予言されています。中性子は電荷を持たず、かつ分子間力の影響を受けにくいなど、重力以外の相互作用を大きく抑制することが可能です。この特徴を活かして、非常に近距離(〜nm)における重力相互作用の働き方を中性子散乱を通して検証しています。

時間反転対称性の破れの検証

 自然界の時間反転対称性は粒子反粒子の違いを表すCP対称性と直接的に関係しています。CP対称性の破れは既に確認されているため、時間反転対称性も破れていることが考えられます。この時間反転対称性を検証する有力なプローブとして中性子電気双極子モーメント(nEDM)と呼ばれるものがあります。今日までにnEDMが有限の値を持つことは確認されておらず、nEDMの値の決定は素粒子物理学の最重要課題の一つです。このnEDMを、中性子光学を駆使して精密に検証していきます。